カショギ氏の殺害はサウジアラビアの政治的安定性にどのような影響を与えるのか?

19 December 2018

原文: HOW WILL THE KHASHOGGI KILLING IMPACT POLITICAL STABILITY IN SAUDI ARABIA?

ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の殺害はサウジアラビアの政治的安定と投資家の信頼に短期的に影響を与えるだろう。しかし、特定の個人に対するアメリカの制裁リスクが存在するにも拘らず、長期的な経済への影響は限定的であり、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子がその地位を保つことは確実である。

安全保障環境

2018102日、サウジアラビアのジャーナリストのカショギ氏がイスタンブールのサウジアラビア領事館を訪れた後に殺害されたことにより、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の地位が弱められる可能性が高い。皇太子は近年、支配一族の多くのメンバーを疎外しつつ権力を彼自身の周囲に集中させており、これはこの事件について彼の責任が問われることも厭わないことを意味する。しかし、皇太子はカショギ氏の失踪に関しての個人的な責任を認め、それによって更に彼の地位を弱め、政変リスクを高めるようなことはしないと見られる。その代わりとして、政府は殺人の責任を‘悪党の計画’に帰している。皇太子は彼の父であるサルマン王の援助を引き続き受けると目されており、その意味するところは、米国を懐柔するために主要なアドバイザーを計画的に交代させるという結果を生む可能性が最も高いということである。

カショギ氏の殺害は結果として、国家間の戦争リスクを著しく上昇させるとは予想されていないが、地政学的に敏感な状況に影響を及ぼす。アメリカとトルコの両国はサウジアラビアとの相互関係を著しく損なう状況を許容するようなことには言及したがらないだろう。トランプ政権はその地域のパートナーと断絶することよりも、サウジアラビアにおけるアメリカのビジネスや反イランの活動を優先させるだろう。しかし、来るアメリカの中間選挙と議会の圧力は、トランプがサウジアラビアに対し何らかの行動を起こすことを促すかも知れない。その場合、恐らく王家外の個人に対する限定された制裁という形をとるだろう。もしもサウジアラビアがカショギ氏の死に関与したという明確な証拠をトルコが発表した場合は、王家のメンバーを標的にしたより広い制裁が課される可能性もある。エルドアン大統領がサウジアラビアに対する責任追及に積極的でないことが明らかになり、トルコもまた事態の収拾を強く望んでいる。

貿易環境

カショギ氏の失踪を受けて、多くの著名人が20181023日から25日にリヤドで行われた国際投資フォーラムから辞去し、サウジアラビアとの関係を再考するつもりであることを公表した。例えば、Richard Branson氏は宇宙ビジネスを行うバージン社への投資についてサウジアラビアの国家投資ファンドとの協議を中止したと伝えられた。こうしたことは国際的な投資家がサウジアラビアへと関係していることによる風評被害を受ける可能性に慎重になるため、サウジアラビアの経済多様化の努力に対して下方リスクを上昇させるだろう。

この数ヶ月、サウジアラムコの上場の遅れによっても投資家の信頼は打撃を受けている。しかし、エネルギー、防衛、鉱業、インフラ分野の西欧企業は国家への経済的圧力を減少させながらも、サウジアラビアへの関与を続けると見られる。更に、アジアの企業は抑制的な西欧企業によって残された空白を埋めることに前向きになるだろう。

国家経済は、2018年の不況から回復すると予想されており、実質GDP成長率は1.9%に達するとみられる。生産量の増加がサウジアラビアの財政赤字を2017年のGDP比9.3%から2018年に5.6%に減少させるだろう。しかし、もしもカショギ氏の失踪がサウジアラビアの国際社会から一層孤立することにつながるとすれば、投資家の信頼性の下降はサウジアラビアの経済多様化策を効果的に説明することの阻害要因となり、長期的な成長見通しに対する重しとなるだろう。

投資環境

皇太子は民間分野の成長と経済の多様化を通して国家の石油収入への依存を軽減することを目標とし、サウジ・ヴィジョン・2030計画の追求を続けるだろう。この変革計画において外国投資は非常に重要であり、そのためサウジアラビア政府が民間所有資産の収用を行う可能性は低い。石油価格の高騰が特に運輸、公共事情などの主要なプロジェクトに投資する財政上の余裕をもたらすため、インフラは優先分野となるだろう。結果として、建設産業は2018年に前年比6.3%の成長を見せるだろう。

しかし、国家は「Saudisation」政策の実行に苦戦し、望む目標を達成できそうにない。政策は民間企業が一定のサウジアラビア国民を雇用することを要求し、多くの外国人の出国を助長している。2018年の1月から9月の間に130,000人の建設業従事者が国を去ったと推測されており、事業への労働力不足が懸念される。

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WRR Nov 18  

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