M&A保険マーケットの発展 - 表明保証保険以外のM&A保険 -

22 November 2018

数年前までは、表明保証保険はプライベートエクイティがセラーである案件で使用されることが多かったが、最近ではストラテジックバイヤーにもリスクヘッジの手段や交渉のツールとして頻繁に利用されるようになり、日本企業がバイヤーとなるクロスボーダーM&Aでも活用されるケースが増えている。一方、海外においては表明保証保険以外のM&A保険も、M&Aの際に高頻度で使用されている。ここでは、ディストレスト・アセットを購入する際に米国で使用されている、FRAUDURENT CONVEYANCE INSURANCEとSUCCESSOR LIABILITY INSURANCEについて、紹介させて頂きたい。

1.FRAUDURENT CONVEYANCE INSURANCE(詐欺的譲渡保険)

ディストレスト・アセットのバイヤーが、詐欺的譲渡のリスクを軽減する為に、詐欺的譲渡保険(FCIP)を手配する動きが顕著となりつつある。FCIPの成長を大きく促したのは、もう一つのM&A関連の保険商品である表明保証保険(M&Aの際に表明保証違反によって生じる企業価値の減少などを補償する商品)に対する需要である。このようなM&A保険の普及により、保険業界はM&Aに関わる固有のリスクに対する理解を深め、これに伴いM&A関連のリスクを引受ける能力が大幅に向上した

広義にはFCIPは、倒産に瀕している売り手から資産または事業を買い取ろうとしている買い手の、当該売却が連邦倒産法548項または類似の州法によって定められた詐欺的譲渡であった、という申し立てに関するリスクを補償する保険である(*)。損害額は、裁判所が認定した「合理的な同等価値」から、「当初の購入価格」を控除した金額がベースとなる。

以下のような仮説を検証してみよう。買い手が2016年の取引において5,000万ドルの資産を取得し、売り手は資産の売却後一年以内に倒産の申し立てを行った。申請後は、当該資産の売却は、無担保債権者から詐欺的譲渡があったとして訴訟を引き起こされる可能性がある。例えばこうした債権者は、2016年の売買取引時には「合理的な同等価値」は8,000万ドルであったとの裁判所の裁決を獲得することがありうる。資産の買い手は、「合理的な同等価値」と「当初の購入価格」との差額3,000万ドルの支払いを行う責めを負う可能性があるわけである。FCIPは、それが2016年の売買時点で手配されていたとの前提において、差額の3,000万ドルと訴訟に関わる防御費用を補償する。さらに、FCIPはこれらの資産を転売する際に、資産がその価値を大きく上昇させ、新たな買い手が潜在的な詐欺的譲渡行為に対する懸念を抱くような場合に、元の買い手をリスクから切り離すために利用することが出来る。上記例のような利用法により、2016年の最初の売買取引に関してFCIPが手配されていなかった場合でも、買い手は2018年の転売の前に直ちにFCIPを購入することが可能となる。

保険会社がFCIPの引受を確かに行うためには、売却資産の価値が客観的な証拠に基づく価値に基づいていることが要求される。競売プロセスまたは提示買収価格に関するフェアネスオピニオン(公正意見表明)などに基づき、保険の引き受け条件などを検討する。

<本保険の活用事例>

18か月前
・AはBから石油・ガス資産を購入
・価格は5,000万ドルで検討
・Aは競売においてこの資産の最高入札者であった。

12か月前
・Bが連邦倒産法11条に基づく倒産を申し立て、Bに対する無担保債権者がAによる資産購入は 連邦倒産法548項(b)に基づく詐欺的譲渡であった
   との主張による訴訟を提起した。

現在
・Aは資産(既に生産を開始)を売却しようとしている。
・2億ドルでの売却を検討
・Cがこの資産の購入に関心を抱いているが、売却にあたりAに対してこの詐欺的譲渡レームを特別補償するよう要求した。
・AはPEファンドであり、詐欺的譲渡クレームに関するエスクロー、および、契約上の特別補償のいずれも提供が困難であることがわかった。

解決策
AはCに対して、限度額1.5億ドルのFCIPを提供することが可能。この保険により、かかるクレームに関わる防御費用が補償され、Aが資産の合理的同等価値未満の金額しか支払わなかったとの判決がなされた場合(または和解が同意された場合)の損害も補償される。これによってCの懸念は緩和され、Aが売買において多大なエスクローや特別補償を要求された場合よりも低価格での購入が実現できる可能性がある。

(*)技術的には548項に基づく救済は、資産は倒産した売り手の財産へと戻され、資産の買い手には対価が支払われるような、「以前の状態への復帰」となるであろう。しかしながら裁判所は取引が確定した数か月や数年後に取引を無効にすることは好まず、合理的同等価値に合致させる措置がしばしば講じられる。

2.SUCCESSOR LIABILITY INSURANCE(企業承継者責任保険)

詐欺的譲渡保険と類似のものとして、企業承継者責任保険(SLIP)が資産または事業の購入者にとって利用可能である。この保険は、購入者が売買取引において明確に認識していないリスクを軽減するためにある。FCIPと同様、SLIPも保険市場におけるM&A取引に関するリスクの引受能力の向上とともに、成長を遂げてきた。

SLIPは、売り手が有する責任または補償義務を全うする上で、売り手の財務力に懸念があるような取引について有効である。買い手はSLIPを手配することで特定の事項(例えば、特定の訴訟事案に関するリスク)や、より広義な未確認の一般的な補償義務をカバーできる。SLIPは倒産案件(363項売却)に該当する資産売却において、無担保の債権者が資産の買い手に対して承継者責任を負わせようとする懸念がある場合にも、適用が可能である。例えば、倒産再生手続きにおいて買い手が購入しようとする資産について「留置権等のない」整理を希望する買い手を想定されたい。

「留置権等のない」整理が認められたにも関わらず、資産の購入後も労働関連の責任(例えば、売り手の従業員の年金の積立不足)やその他の重要な訴訟が資産に関して提起されるリスクがある。このような場合、買い手はSLIPを手配し、363項売却に伴う責任リスクを保険市場に移転することが出来る。SLIPは倒産に瀕した売り手による資産売却における、その他の一般的な補償義務・賠償責任に対して、セラー側の履行能力の懸念があるような場合についても、活用が可能である。

州裁判所や連邦裁判所における多くの慣習法上の説が、事実上の合併(正規の法律上の手続による合併には該当しない取引行為であっても、それが合併と変らない効果を持つ)、生産やオペレーションを継続した場合について、企業承継者責任を課す方向で打ち立てられてきた。FCIPと同様に、SLIPもディストレスト・アセットのバイヤーに対して、売り手の補償能力に財務的な懸念がある場合、企業承継者責任により発生するリスクに対して懸念がある場合になどに、適用することが可能である。

<本保険の活用事例>
・売り手は倒産に瀕しているが、まだ倒産の申し立ては行っていない。
・買い手は売り手から一定の資産の購入を望んでいる
・買い手は競売における最高入札者である。
・売り手は引き続き他の営業資産を保持しようとしている。
・引き続き保有する資産の従業員とオペレーションに対してみ不当労働行為(ULP)の判決が下された。
・売り手または引き続き保有する資産のいずれかがULPの判決に対応できる十分な資力を有しているか不明である。
・363項に基づいて「留置権等のない」整理よる資産購入を行うことで、その価値を最大化する。
・買い手は、ULPの原告が、保有する資産と売却予定の資産に対する企業承継責任者として、買い手に対して求償することを懸念している。

解決策
買い手は企業承継者責任をカバーするために、ULP判決に関する州または連邦の慣習法上のクレームを補償し、363項売却が倒産判決によって承認されたときから効力を発揮する、SLIPを手配することが可能である。

本ニュースレターは、JLT Specialty USAのJohn McNallyが米国の法律雑誌「Law360」向けに共同寄稿した雑誌記事を参考文献としています。日本国内においては現状、同種の保険契約を手配することはできませんが、米国でのM&A・アセットの買収に関与するバイヤー・アドバイザーの皆様への参考情報として、本稿を準備させて頂きました。

 

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